【短】夏秘め natsu-hime


「紗里先輩。デートっすか?」



少し離れた場所から、陣があたしに声をかけている。


“先輩”。あたしをそう呼んで。



あたしが返事もできずにいると陣は、


「おい、玉木。先輩のデートのジャマせんと、早よ行こらよ」


と玉木さんを急かした。


頭のいい玉木さんは、なんとなく状況を理解したらしく、


「あっ…そうやね。すみません、紗里先輩。失礼します」


そう言って、そそくさと去って行く。



陣……もしかして

あたしをかばってくれたん?



人ごみに消えていく、陣と玉木さんの後ろ姿を見ながら、胸がキリキリと締めつけられる。


かばってもらって、助かったはずなのに。


胸が痛い。

痛いよ、何これ……。



「紗里?」



拓ちゃんが気まずそうに口を開いた。



「さっきあの子、1年って……」


言いかけて、拓ちゃんは


「いや、やっぱりええわ」


と首を振った。