「紗里」
「ん?」
「えっと……今日は、時間いけるんか?」
拓ちゃんが前を向いたまま、ボソッと言った。
横顔の頬が、心なしか赤い。
「……うん」
「そうか」
つないだ手の力が、少し強くなった。
……これでいいんよね。
憧れてたオトナの恋そのもの。
拓ちゃんはカッコいいし優しいし、何も迷うことなんかない……。
「ん? あれ」
ふいに拓ちゃんが言った。
「紗里の幼なじみちゃうん?」
「え?」
拓ちゃんと同じ方を見ると、人波のむこうに、陣の姿。
そしてその隣には。
「玉木さん……」
制服のときよりずっと可愛い、ワンピース姿の玉木さんがいたんだ。
「へ~。可愛い彼女、連れてらいしょ」
拓ちゃんが微笑ましそうにつぶやいた。