「紗里? 元気ないけど大丈夫か?」
拓ちゃんに声をかけられたあたしは、サッと笑みを浮かべ、顔を上げた。
「うん、全然平気やで」
「そうか」
安心して微笑む拓ちゃんに手を引かれ、人ごみを進む。
ここは花火大会の会場の、T港。
花火が始まる数時間前から人が大勢集まって、屋台のいい匂いが漂っている。
「ほら、かき氷」
「……ありがとう」
拓ちゃんにもらったかき氷は、イチゴのシロップがたっぷりかかって美味しかった。
うちの店で陣と食べるアイスより、ずっと美味しい。
――『俺は昔から、お前のこと……』
アカン、アカン。
思い出すな、今は。
せっかく拓ちゃんといるのに。
浴衣も褒めてもらえたし
こんな本格的なデート、初めてなんやから。
楽しまなきゃ……。