【短】夏秘め natsu-hime



「あ~あ~。こんな濃い化粧されてよぉ」



拓ちゃんはそう言いながら、あたしの唇のグロスをティッシュで拭い始める。



「紗里は化粧しやんでも、そのままがええんやで」


「でも、あたしもお化粧したい」


「来年まで待ちなぁよ。高校入ったら、自然と化粧するようになるわ」



……違うもん。


来年は、あたし

まだ……。



ごみ箱にティッシュを捨てると、拓ちゃんは窓を少し開けて、タバコを吸い始めた。


外に広がる畑の、葉の深緑が目にしみる。



「……拓ちゃん。あたしもタバコ吸いたい」



拓ちゃんは眉を下げて「アカン」と苦笑いした。



「なんで?」


「女の子は吸わん方がええ」


「でも妹さんは吸ってたやん」


「どうしたんよ、紗里。
今日はダダっ子やなぁ」



ほら、また子ども扱いや。



「……ダダっ子ちゃうもん」



拓ちゃんはあきれたように煙を吐き出して、灰皿にタバコを押しつけた。


怒った……?

あたし、さすがにしつこく言いすぎたかな?



「拓ちゃん――」



あやまろうとしたあたしの唇を、拓ちゃんの唇がふさいだ。


口の中に広がる苦み。


タバコの味がする、拓ちゃんの舌。