「あ、いや。何でもない」
そう言ってごまかすと、陣は
「変なやつ」
と、唇のはしを片方だけ上げた。
さっきの原付……乗っていたのは高校生くらいの男女グループだった。
その中のひとりが“彼”に見えたんやけど……
まさかね。
こんな所にいるはずないし。
「紗里(さり)―っ」
一階からお母さんの声が響いた。
「何―?」
「お母さん、今から買い物行くさけ、陣くんとふたりで店番しといてー」
「えーっ」
「お願いー。売り物のアイス食べてもええからー」
「よっしゃ! 了解!」
あたしより先に陣が答えて、軽やかな仕草で部屋を出た。
「めんどくさいなぁ……」
あたしも仕方なく、一階に向かう。
階段をかけ下りる陣の、汗で湿ったうなじを、3段上から見下ろしながら。



