【短】夏秘め natsu-hime


『すごいなぁ、紗里ちゃん。
今、2秒も鳴らしてなかったでぇ』



拓ちゃん……。


拓ちゃんの低い声。

すごい安心する……。



あたしは携帯を耳に当てながら、陣を手のひらで“シッシッ”と追い払った。



『紗里ちゃん、今日は登校日やろ?』


「え、うん」



『俺、紗里ちゃんの中学の前まで迎えに来ちゃったで』



「……え?」



一瞬、頭がフリーズした。


おそるおそる窓の外を見ると。

グラウンドの向こうに、見慣れた原付と拓ちゃんの姿。


あたしはとっさに、窓の下にしゃがんで隠れた。



ま……まずい。
かなりまずい!


だってあたし、中3って嘘をついてるんやもん。


学校に来られたら、バレてしまうかもしれん!



『紗里ちゃん? どうしたん?』


「えっ、ううん、何でもない」



必死で動揺を隠して、話していると。



「ほぅ~。お前の彼氏、迎えにきてらいて」


「!?」



まだ陣がそばにいたらしく、

あたしの横に立って、窓の外を見ながらつぶやいた。