【短】夏秘め natsu-hime


……信じられない。


信じられない。



このド田舎の小さな町で

きっと今、あたしが一番のシンデレラだ。



「お母さーん! あたし、出かけてくるーっ!」


「はぁ!? こら、紗里―!」



2階から響くお母さんの怒鳴り声を無視して

あたしは彼とふたりで、太陽の下に飛び出した。







「名前、サリって言うんか」



近所の海の岩場で、タバコを吸いながら彼が言った。



「あ、うん」


「可愛い名前やなぁ。魔法使いサリーちゃんみたいやん」



サリーちゃん。

そのせいで子どものころから、さんざん陣にからかわれてきたんやけど。


でも彼が“可愛い名前”って言ってくれるなら、サリーちゃんでもプリキュアでも何でもいい。



「あの、大倉さん」


「“拓”でええで。
敬語もいらんし」



う……うわぁーっ。


このやり取り、少女マンガで見てめっちゃ憧れてた!