持ってきていた小さなクーラーボックスから、冷えた缶ビールを二本取り出す。

一本は墓石の前、一本は俺の手に。

次いで、ひとパックの刺身を置いた。


……どんな酒よりもこのビールが美味いんだと言っていた親父の、引き攣った笑顔を思い出す。


本当はただ、その安いビール以外の酒を買う金が無かっただけだろうが、だが確かに、親父には缶ビールがよく似合う。


既に薄く汗をかいた缶ビールのタブを手前に引くと、プシュッという心地のよい音が耳に届いた。

つうっと、こめかみから汗が流れる。
固く握った拳で、それを拭う。


真っ直ぐに目の前に立つ墓石を見つめ、俺は笑った。

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