怪我が良くなるのには時間がかかった。
仕事こそ休んだものの、今のあたしにとって一番大切なのは、曾根崎心中の舞台のことなのだ。
練習だけは休む事が許されないし、休む気もなかった。
体のどこが悲鳴を上げていようとも、あたしは踊るしかなかった。
「ちょっとトビぃ…大丈夫なん???
あんまり無理しても舞台に差し支えなくね???」
望美は休憩時間ごとに、あたしの体を気遣ってくれた。
啓太とは顔を合わせる事があっても、話すことは全くなかった。
気まずいとかじゃない。
スタジオの中にいる時間は、練習を重ねている時間は、あたしはあたしからかけ離れる。
啓太も望美も見えていなかったんだ。
どんな言葉も耳に入らない。
聞こえる音は、スパニッシュギターの奏でる音だけだから。
「練習終わり!!お疲れ様でした!!!」
美佳さんの声が、あたしの唯一の現実から離れられる時間の終わりを告げた。
上がる息に気付いたとき、初めて自分の体についた、まだ治らない生傷の痛みに気が付く。
病院には一度も行かなかったから、どこにどんな傷を負っているのか、自分自身よく分からない。
右の脇腹が異常に痛んだのを考えると、もしかしたら肋骨を何本か持っていかれているかも知れない。


