「章なら、きっと絶対に、素敵な人と巡り逢えるよ。私よりもずっとずっと、素敵な人。章に似合う女の人は私じゃない。」

だから、章。また恋愛をして下さい。また、人を愛して下さい。きっとできるから。

「…ありがとう。」

章はそう微笑んで、私の瞳から零れた涙を掬った。

「最後だから。」

章の唇が私の唇を塞ぐ。少し震えたキスだった。

「さようならのキス。」

そう笑った瞳から一粒、キラキラと光る涙が零れた。

「章…」

「俺、もう吹っ切れたわ。それに…他の奴に惚れてる女と付き合う趣味、俺にねえし。」

章は淡々とそう言って、満月を見上げた。

「いつか、美加を忘れることができたら…他の女を好きになることができたら、また友達に戻ってくれる?」

私から背を向け、章は尋ねた。その広い肩は少しだけ震えてるように見えた。
―そんなの、決まってるよ。

「うん。私もね、章と友達に戻りたい。」

「美加、俺それまで連絡控えるな。」

「―わかった。」

「じゃあ、元気でな。夏風邪ひくなよ?お前、すぐ風邪ひくから。」

「うん。章もね?」

「俺はいいんだよ。…またな。」

別れは、辛かった。章の涙を私は初めて見た。それが、ずしんと心にのしかかった。章を泣かせたのが私。それが、悲しかった。
いつも章は笑ってたから。

でも、後悔はしない。
この別れはお互いの為だから。いつか本当の友達になったら、また会える。
章、それまでさようなら。


彼の背中が見えなくなるまで、私はその場から動かなかった。