社長はケーキを食べ終え、ゆっくりと紅茶を飲むと、
『あぁ、美味しかった…
このケーキ食べたら、何だか娘のこと、思い出しちゃったわ。
あの子、今頃どうしているのかしら…?』
そう独り言のように呟いた。
「一緒に暮らしているんじゃないんですか?」
俺が聞くと、
『娘は離婚した夫が引き取ったから、もうずっと会っていない…
母親失格ね…』
今にも泣き出してしまいそうな社長の表情に、俺の胸が痛んだ。
仕事を究め、欲しいものは全て手に入れたであろう社長は、幸せな人なのだと思った。
でも、仕事を選択することで、離婚を選択することで、最愛の娘と離ればなれになっていたとは…
彼女は仕事の成功と引き換えに、女性としての幸せを手放したのだろう。

