燕と石と、山の鳥

なおもゴネる芹緒を無理やり引きずって静かな我が家に帰る。

まだシャッターの閉まる店頭の玄関ではなく裏口から入ると、まだ家の中は薄暗く忍び足になる俺を察してか芹緒も急に静かになった。

家の中には既にお袋の作る味噌汁の匂いがしていて内心少し焦る。

お袋が朝食を作ってるって事は親父が起きてるかも知れないと言うことなのだ。


裏口の微かな物音に気が付いたお袋が控えめな足音をたて顔を覗かせ、俺と芹緒を見るなり柔らかく双眸を崩した。


「お母さん今起きて来たばっかりでお父さんまだ起きてきてないから早いとこ部屋行っちゃいなさいっ」


職人気質な親父に完全に従順じゃないのはお袋の良い所だと思う。
簡単にお袋に礼を言って靴を脱いだ俺の後ろで芹緒が恐縮する声とお袋の嬉しそうな声が小さくする。
お袋の歓迎にあって断りずらくなったらしい芹緒はおとなしく物音を立てないようにして俺の後ろをついてきた。


まだ暗い廊下だが、俺は勝手知ったる我が家だし、芹緒はさすがというべきか、面をしてようがただでさえ周囲の輪郭が見えるかどうかの明度だろうがお構いなしらしく、足取りが乱れる気配は感じられず、無事自室にたどり着くことができた。



自室の電気もつけず、とりあえず窓のカーテンだけ開けると、白み始めた空の明かりだけで部屋の明度を上げた。