燕と石と、山の鳥

相手が専門的な知識に基づいて動いていたというなら、まずはその基づいたものをある程度知らないとならない。

いくら言霊が使えると言ったって使う言葉に知識が必要なものはあるだろう。
俺自身、なんの中身もない虚勢を言霊を有効にさせる程の自信はないし、力もないと思った。


芹緒とわかれ家に帰った俺は、訓練用の人形を前にぐるぐると集中に向かわない思考を持て余していた。

そんな状態で、言霊が使えるわけもなく…結局気が付けば一時間以上向かい合っているだけだった。



「お兄ーご飯だよ…何してんの?」

「…いきなり開けんなよ」


そしてそんな目で俺を見るな。


「芹緒からの預かりもん」

「へー日本人形だよね?芹緒さん家旧家かなんか?」

「らしいな」

「でもまたなんでお兄みたいなののとこに預けるの?」

まぁ不思議だよな。

「知らねぇよんなもん」

「絶対この子も楽しくないと思ーう。ねー?」


そう言いながら梨里子は抱き上げた人形に同意を求めるように首を傾ける。
こういうとこ変わってねぇな。


「うっせーな。飯だろ?行くぞ」

「あー待って待って!じゃあね、お人形さん」


人形を俺のベッドに寝かせると梨里子はそのまま廊下で待つ俺の横をすり抜け鼻歌混じりに階段を降りて行った。

人形は後でしまえば良い。

俺も後に続いた。