燕と石と、山の鳥

「おい、おい芹緒!」

「ひゃいっ!?」


錯乱してんじゃねぇかと思う程に挙動不審な芹緒の頭を掴むと、芹緒は狗神の夜の事があるからか反射的に能面を押さえてピタリと立ち止まった。


「右折したぞお前」

「え?は、あれ?……えーと、なんでしたっけ?」

「さっきの十字路を左」


よっぽど動揺してたのか数秒前の自分を段々冷静になって来た頭が整理し出したらしい。
数秒固まった後、芹緒は「なんか、すみません……」と肩を落とした。





「おやまぁなんと」


そこに、突如横合いから聞こえて来たしゃがれ声に振り向くと、枯れ木のような老人が僧衣を纏って立っていた。
見れば、俺達は寺の門の真ん前で立ち止まったらしい。

物珍しいのかただ見ているだけなのか、脂肪のほとんど見つけられない痩せた瞼から出る目玉はぎょろつくようにして俺達二人をとらえている。


「これは申し訳ありませんご院主。
騒がしかったですか?」

「いいえ、いいえ、これもご縁かと。
そう思いましたんでございます」


調子を取り戻した様子の芹緒の謝罪に住職は芹緒の何倍も遅いトーンでそう穏やかに返して、うっすらと白髪の繁る頭を深く下げた。