燕と石と、山の鳥

「いくら紺が狐憑きの血を濃く継いでいると言っても、一朝一夕で出来るものじゃないと思いますよー
僕がヒノに対して言霊を有効に出来るまで確か二ヶ月かかりましたから、それこそ一日二日で出来るようになられたら僕が凹みます」


「…………そういうもんなのか」


人形を渡されてから三日。
朝晩は自室で、昼と放課後に学校の屋上で俺はただひたすら人形の目を覗き込んでいた。

勿論、成果はなし。



相変わらず、不審者を見るような大衆の目に晒される休日の電車の中で今日も今日とて小面を被っている芹緒は俺の弱音をあっけらかんと笑い飛ばした。

二ヶ月が普通の奴が言霊を扱えるようになるまでの期間としての長短は俺にはわからないが、芹緒も同じ訓練をしたのか、といまさらながら気付く。


朝のラッシュを過ぎた午前の電車内は人もまばらで、山沿いに並ぶ民家や畑、神社なんかが陽光の満ちる窓の外を流れていく。

今はもうここいらじゃあまり見なくなった鈍行電車のボックス席を陣取り(残りの二人分の席に誰も寄り付かないだけだが)、俺達は隣町に向かっていた。


そういや、身内以外の奴と休日に外出するなんて、一体いつぶりだろう。