燕と石と、山の鳥

ここまでは大丈夫ですかと一度区切る。



「こないだの牛頭鬼午頭鬼なんかは例外なのか?
あいつらは言霊を使う妖怪なんじゃねぇのか」

それに俺の中に流れる忌み物筋たる狐憑きの力だって言霊の力なのだ。

「妖怪は意思を持ちません。
妖怪が山を降りて来るのは人の感情に条件反射のように反応するからで、人にとり憑いた時はじめて妖怪はその性質にあった能力を人を介して発生させます」

「妖怪が直接言霊を使うってわけじゃねぇのか」

その通り、と芹緒は少し嬉しそうな声で続ける。

「力を発現させるのと受け取るのはいずれにせよ人なんです」


なるほどな。
まず人在りきってわけだ。


そこでですね、とそこで芹緒はようやくその細い腕に抱かれる風呂敷に手をかける。


「逆を言えば、人以外の対象に言霊を使えるようになれば、人に対してになればもっと容易、どころかより強い効果を与える事も可能なんです」

練習の段階でランクを上げておけば実戦も安心って事か。

ようやく風呂敷から中身が顔を出す。

白い顔に黒い艶、紅い唇に鮮やかな着物。

古いが、よく手入れされた日本人形だった。



「紺は九十九神というのをご存知ですか?」

何十年もあるような物には、ってやつか。