燕と石と、山の鳥

屋上に出る。

日差しの攻撃性はなりを潜めたようだが、蒸し暑い空気は健在でコンクリートの保温も絶好調だ。


「ご苦労様です」


頭上からの声にそっちへ視線をやると、タンクの上に相変わらず瞬間的な表情のまま固まる面を付けた芹緒が立ち上がるところだった。

そのまま跳躍して俺の前に降り立つ。

身軽と言っても足りない気がする。
まるで質量の感じられない奴だな。


「それじゃ、さっそく訓練を始めましょうか」

「おー…なんだそれ?」


普段手ぶらが目立つ芹緒が珍しく手荷物を持っている。
えらく年季の入った風呂敷で、芹緒が軽く抱えるくらいの大きさだが、持っている芹緒の様子を見る限りではそれほど質量のあるものには見えない。



「これはですね……あ、その前に紺。
紺は言霊といえば対象はどこまでだと考えますか?」

「は?……人、じゃねぇのか?」

「確かに言霊は思考を操作することにも使用されますが、意思疎通の手段として解釈する方が良いんですね。
その場合、対象は意思を持つもの、"心"を宿してさえいれば人でなくても可能です」


ピ、と芹緒は指を立て淀みなく解説する。


「言霊の影響は使う者の理解の認識が深い対象である程受けやすい。
そして言霊を使うのは言葉を扱う者だけ、つまり人だけですから、自然と1番言霊の影響を受けやすいのは人、という事になります」