燕と石と、山の鳥

「せめてお」「金が入れ」「られないならせ」「めて保険金で」「も使っ」「て少しは」「足しにさせても」「らおうと思ったの」「にそれもあい」「つしくじった」「使えない」「どこまでも」「どこまでも」

「「役立たずな奴」」


「てめぇら…っ」

す、と、芹緒が手で俺を制す。
その小さな背に、少し頭が冷えた。
芹緒がぶつぶつとまだ何か言っている二人に返す。


「お父さんに、今回の自殺を示唆したんですね。
人の死を求めるあまり、親子の絆に付け入るなんて随分酷な真似をしてくれたもんです」


剣を握る指に更に力が入るのが見えた。
こいつも、怒ってる。
この兄弟にじゃなく、とり憑いた妖怪にだが。

ゆっくりと剣を構えると、冷ややかな言葉が、確かな強さをもって空気を震わせた。




「牛頭鬼、馬頭鬼、お前達を在るべき場所へと帰します」



強く畳みを踏み込み、その剣は二人が反応するより速くその身体を一閃した。

いななきにも似た悲鳴が上がり、成長しきらないその身体から黒い煙りが噴き出す。





「お還りなさい。己が住み処へ」




そして煙りは部屋の四隅に吸い込まれるようにして姿を消し、芹緒はまだ塞がり切らない傷のある左腕を振り、部屋にその血飛沫を細かく散らした。

辺りに散った血は、蒸発するようにすぐに消えた。



「颯士(ソウシ)ちゃんも冬真(トウマ)ちゃんもどうしたんだい?立ち上がったりなんかして…」

数秒の沈黙の後、催眠状態からとけた様子で、一人の老婆が呆然と立つ二人に声をかけた。

既に剣をその手に持っていないとは言え気付いたら大衆の前に立っていた芹緒を訝しげに見る目もあったが気にした風もなく戻ってきて、バトンタッチを示すように俺の腕を軽く叩く。
それを受けて俺も入れ違いに足を踏み出した。