燕と石と、山の鳥

「声の主がとり憑かれてる奴って事で良いのか?」

「はい。まず間違いないでしょう。
恐らく…牛頭馬頭(ゴズメズ)の仕業でしょうね」

「…あ?」

聞き慣れない単語だった。

「罪人を迎えに来ると言われる火のついた車を引いて来てはその罪人の魂を責め立てる鬼達です。
言霊の力を使う妖怪ですから、この場に居る人達は催眠状態に近いはずです」


なるほど。
だから同じように言霊の力を使う狐憑きの血が濃い俺には効かなかったわけか…。


俺達はその場を立ち、後ろから狭い部屋を見渡す。

丸まって列ぶ黒い塊の先頭、頭蓋骨の形を生々と感じさせる後頭部を覗かせる僧侶のすぐ後ろに見える、異質な物に気が付いた。



それは"角"だった。

人の塊の向こうに鬼がいる。


その時、芹緒が小刀を取り出したのが見えた。
不思議に思って見ると、芹緒はなんの躊躇いもなくその刃を自分に向ける。


「おいっ…!」


俺が声をかけた時には、既にその白い腕には鮮血が滲み出て、流れ落ちようとしていた。


「僕の家系の血液には妖怪の力を無効化する力があります」

そういって軽く面を持ち上げると指に伝って来たその血をぺろりと舐めた。
そして面を付け直し、軽く頭を振る。
俺が思うよりずっと言霊の影響がキツかったらしい。

「退妖の剣の顕現にはこの血が必要不可欠なんです」



なんでもないようにそういって、前回の如く空気を斬った。