燕と石と、山の鳥

経文に沿うように、無意識から人の脳を掻き混ぜるようにして、本当に恨み言がこの場を満たしてやがる。

隣を見ると、芹緒が何も気付かない様子で手を合わせている。
変だ…。


｢おい、芹緒｣

｢ほら、紺。ちゃんと手を合わせて下さい｣

｢おい…！｣

｢生活に窮していたからと言って子供を置いて逝くような人でも、故人は弔わないと｣


その呟きは、俺に確信を与えた。
長い付き合いじゃないがこいつは、見ず知らずに近いくらい情報の少ない人間を悪く言うような浅はかさは持っていないはずだ。
俺は、芹緒のその細い右手を引いて、無理矢理こっちを向かせた。


面の奥にある芹緒の眼は、呵責の念で染められつつある。
言霊という言葉が頭を打った。



｢ちょっ紺…｣

｢良いから、俺の目を見ろ…！｣



唸るように小声で言うと、芹緒は水を打たれたように大人しくなった。

｢しっかりしろ｣


お前はそんな奴じゃない。
芹緒の眼から流れてくる負の感情は些細な物だ。
駅で人殺しと疑われた時に比べれば、困難じゃないはずだ。

思った通り、芹緒はすぐに持ち直したらしい。
辺りを見回すと、｢すみません。油断しました｣と囁いた。

俺は内心安堵すると、気を引き締め直し、聞いた。