燕と石と、山の鳥

しばらくすると、お袋が紅茶を入れて上がって来た。
理人相手じゃしないところを考えると相手を見てるな。


「……パン」

「はいっ?」


お袋が去った後、芹緒がそわそわとビニールを気にしていたからこっちから切り出してやると座布団から浮く勢いで反応を見せた。
「食えば?」と促すとしばらくそわそわと逡巡してから「ではお言葉に甘えて…」と言ってようやくパンを取り出した。

そして面を上にずらして目元だけが俺に見えないようにする。



怖々開く小さな口ではむ、と音が聞こえそうな調子でメロンパンを頬張る。

口の端についた砂糖とパン屑を白い指で丁寧に取りながらもぐもぐと動かす口をやることもないからただ眺める。



やがて、口をへの字にして顎まで使うようにしてそれを飲み込むと、その口元を綻ばせた。


「美味しい、ですね」

「…そか」


自分の返事の柔らかさについ俺まで微笑んでいた事に気付き、まるで倉敷と話してる時みたいな和み方をしていた自分に僅か苦笑する。

芹緒はパンに夢中でそんな俺の様子には気付いていないようだった。