燕と石と、山の鳥

むしろ普段のあいつの考える事の方が良からぬ事なんだが、まぁ大それた事を出来る程の度胸はないからな。

心配なし。


「さっきのやり取りで思ったんですけど…最近の若者はお能なんかは見たりしないんですかね?」

「あ?あー…そうだな。
見る奴ぁ少ねぇな」

つかお前も一応年齢的には最近の若者だよな。

「まさか紺も…今まで僕が付けていた面が全てお能の面だと、そう思っていたんですか……?」


急に恐ろしい事に思い至ってしまったとでも言う風に俺の方を見る。
表情は見えないがかなり鬼気迫るオーラが感じられる。
どんだけ焦ってんだ。

俺はため息をついてから少しひと呼吸おくと記憶を辿り始めた。



「今日のは小面だろ。能面の中でも1番若い女面だ。
この前事故が起きた時につけてたのは翁面、あぁ尉面とも言うか。とりあえずこいつは能面の中で1番歴史の古い種類。
狗神を斬った時にしてたのは能面じゃねぇな。元は儀式に使われてたってんだから儀式用のか?」


ま、そんなとこだろ――と結ぶとしばし芹緒は動かなかった。
放心してるらしい。



爺さんあたりが好きだったらしく家に本があった。
まぁ、家業手伝ったって時間ならあったからな。
読んでたら面白そうだったから舞台を見に行くようになった。
ま、趣味だな。