突然俺の後ろにいた芹緒の言葉に俺は振り返り、圦さんはその時初めてこいつの存在に気がついたようだった。






「ん?
君は?」


「あ、自己紹介が遅れました。
僕は泰納 芹緒と申します紺の友人です」





「お見知り置きを」と芹緒が結ぶと、圦さんは目をまん丸くして呆けている。





…何が言いたいかは、だいたい予想がつく。






「へぇー紺に友達…」




どこで会ったの?みたいな表情。
俺に人が寄り付かない事は圦さんも知っているし、第一相手が俺じゃなくてもこんなじいさんの面付けた変な奴との接点は知りたくなると思う。









「まぁ…ひょんな事から顔見知りになったんス」




とりあえず、濁しておいた。











「ふぅん。
で、泰納君だっけ?
"わざと落とした"って?」

「僕は紺の反対隣にいたんです。
そしたら後ろから例の男性が来るのが見えまして、少し辺りを見たかと思ったら紺をみつけて鞄を抱えなおしてぶつかって来たんですよ。
その時にハンカチをポケットから出して落とすのが見えました」






「そんなのよく見てたね…」と関心する圦さんに「人間観察が趣味なもんですから」とますます怪しまれそうなことを言って頭を掻いている芹緒を見る。

俺といる間も、かなり周りに気を配っていたらしい。




「それじゃ、自殺を他殺に仕立て上げようとしたって線も考えられるなぁ…
候補に入れとくか…」



圦さんはぼやくようにそう呟くと、手帳に何か書きつけて俺達にもう帰っていいよと告げた。