「もう平気だ。
サンキューな」



俺が笑ってそう言うと、芹緒はしばらく固まって、パッと手を放した。



「とりあえず、状況説明とか必要になるだろうから、ここにいる人はみんな残っていて下さい」

「あ、はい」



他の駅員達も、騒ぎ立てる連中を落ち着かせたり指示をしたりせわしなく動いている。


警察が程なくして到着し、その中に俺はよく見知った顔を見つけた。






「よぉ浅水の坊主。
今回はまた随分な災難に巻き込まれたなぁー」

「イリさん!」




刑事の圦光 染治(イリミツ ゼンジ)さん。
しょっちゅう誤解されて補導される俺の無罪をその都度主張してくれるある意味俺のヒーロー。


芹緒の付けてる翁面にも似た柔和な顔を苦笑させながら俺の肩を叩く。





俺がその時の事を話すと、圦さんはため息をついた。



「偶然落としたハンカチ拾っちまったから誤解受ける羽目になったってわけかー
相変わらずの悪運だな」


俺も思わず苦笑した。









「あの男性、わざと紺にぶつかってわざとハンカチ落として行ったんです」