「お兄、早く来ないかなぁ…」
誰もいない校門で、梨里子がポツリと呟く。
メールを送って5分程しか経っていないのだが、一人だとやはり心細い。
あのストーカーじみた男の事もあるからだろう。
その眼には不安げな色がちらついていた。
ジャリ…
「っ」
突然近くの影から聞こえた足音に、思わず梨里子の肩が跳ねる。
そちらに顔を向けると、ギョロリと梨里子を凝視する男と眼が合った。
思わず悲鳴を上げそうになるのを堪えて、かろうじて梨里子は引きつった笑みを向けた。
「……あさ……あさ…み……梨里子……さん…」
ボソリボソリと、紡がれた自分の名に制服に包まれた身が総毛立つのを感じる。
「…あの…あの……僕……あな…あなたが……好きです………だから…だから………僕と…付き合って…下さい…」
長い髪の奥から向けられる二つの眼球は真っ白い白目がやたら主張されて見える。
兄は何をしているのかと、梨里子は内心言い知れぬ恐怖感からパニック寸前で思う。
「えぇと……あの……」
返事をしないと、危ない気がしてなんとか声を絞り出す。
声が、凍えた時のように震える。
「…ごっごめんなさい!!」
がばっと頭を下げた梨里子に、温度の下がる沈黙が降りる。
やがて男から発された声は、おぞましい程に恨めしげだった。


