燕と石と、山の鳥

「犬は犬らしく、主の所へ、お帰りなさい」



静かに響く芹緒の声に影はぐずぐずとくすぶっていき、最後の言葉と共に鋭く人差し指と中指だけを立てた腕を振ると、鎌鼬に当てられたように体が割れて煙りのように消えた。





「なんなんだ…今の……」

「今のは狗神の邪念の余波みたいなものですよ」


「は…?
狗神?余波?」


「外道の呪法から生まれた人を憎む為だけの妖怪ですよ」



馬鹿馬鹿しいと言いたかった。
さっきの邪気の塊を目の当たりにした後では容易にそんなことは言えない。








固まっている俺に芹緒は「浅水さん、今も昔も、妖怪は人の影にいるんですよ」と穏やかに言った。

表情の見えないその鬼面の下から発される声は、何故だか微笑んでいるように聞こえた。




























「さぁ、今のはただの余波だ。
本体を斬りに参りましょう」