燕と石と、山の鳥

「ヴゥゥ……ニクイ……ニクイ…!…バァァアァァ…!!」

「うおっ!!!?」



いきなり襲い掛かってきたその犬みたいな影の塊を思わず避ける。


女って誰の事だよ!?


殴り飛ばしても良いんだが、何故か本能がそれを阻んでいる。


こうしてる今も、奴はもうまた襲い掛かってこようとしている。










「その子を殴らなかったのは賢明ですね。
通常触れませんから」

「っ芹緒…っ!?」





月光を背に、民家の塀の上に立つ芹緒がいた。

今日は誰にも絡まれていなかったその顔には、険しい顔をした四つ眼の鬼面。



その面にあつらえた縮れ髪が風になびく。




「馬鹿おまえ…っ
何しに来やがった!!」

「おー恐いっ
ここ数日助けていただいた中で軒並み1番な恐持てですねぇ」


この期に及んでも呑気な事を言ってる芹緒に舌打ちする。


「いつもとは違うんだよ…!」




「そのお言葉には大いに同意できますね。
こちらは僕の専門ですから」

















「………は?」

「グルルァァァッッ!!」
「お控えなさい」


ピン…ッ



猛る獣に静かに穏やかに、しかし確かな威圧を感じる声を芹緒が放つ。


僅か獣の猛りが怯んだ気がした。