燕と石と、山の鳥







「あの、落としましたよ」



紺に取り残された梨里子が完全によそ様向けな清純派スマイルを向けたのは、明らかに暗そうな男だった。

元々そんな骨格だったのかと疑いたくなるような曲がり込んだ背に、無造作に伸ばされたボサボサの髪。

どこか落ち着かない目をしたその男は今しがた自分が落としたらしい生徒手帳を自分に差し出す梨里子を凝視している。



口の中でぼそぼそと呟きながらそれを受け取る。

どうやら「ありがとうございます」と言ったらしかった。





「いいえ」と返した梨里子の姿を発見した紺が彼女を呼ぶと、梨里子は「それじゃあ」と一礼すると紺に向き直りまた買い物袋を持たせて無理矢理紺を伴って例の店に消える。









男はその背中を見えなくなってもしばらく追うように固まっていた。