燕と石と、山の鳥










放課後

夕日の入る無人の教室で一人、携帯を開く。

梨里子に電話をかけると、4コールの終わりあたりで繋がった。


すぐに聞き慣れた声がする。



『お兄?どうしたの?』

「…ちょっとな。
お前、今日部活は?」


電話口の向こうで梨里子が首を傾げた気がした。


『今日はないけど…』

「そうか。
最近少し物騒だ。
迎えに行くから出るの待ってろよ」

『え?いきなり…



梨里子の返答を待たずに通話を切ると、俺は鞄を手に教室を出た。


バフッ


出た途端、腹部辺りに軽い衝撃を受けて思わず下を見る。
小学生くらいの女生徒が鼻をさすっていた。



「にぅ、前方不注意…面目ない…」

「…おぉ、ワリィな倉敷」



俺を怖がらない生徒その3。
倉敷 亜子(クラシキ アコ)。
綺麗に切り揃えられたオカッパ頭の下から大きな目をくりっと俺に向ける。



「先輩帰るですか?」

「あぁ、お前は?」



倉敷はふるふると首を横に振る。


「図書館に行ってから帰るのです」

「そっか。
最近物騒だからな。気をつけて帰れよ」


カクリと玩具じみた所作で頷く倉敷と話してるとつい小さい子供と話しているような感じになってしまう。


この時も俺は倉敷の細く真っ黒な髪をくしゃくしゃと撫でると「じゃあな」と言ってそこを後にした。