「おかえりなさい」

フローリングの床を、なるべく足音を立てないように歩いていると、背後からそう声が聞こえた。

振り返ると、通り過ぎた洗面所から、にこやかな笑みの母親が、こちらを見つめていた。


「ただいま」

私も笑って、それに応える。

視線を前に戻してリビングへと歩くなか、心は不安でいっぱいだった。
握った掌は、汗ばんでいる。



……今日も上手く、笑えているだろうか?