甘い香り




「葬式のあの日、お前だけは目に光があった。
 先を見なければいけない、そう思ってた光がな」



…んなこと言われるから、ガキらしくないガキって言われてたのか…。

2人は、あたしを守って死んだ。

あの日はあたしの誕生日で…大雨だった。

レストランからの帰り道、対向車がうちの車に突っ込んで来たんだ。

親父は避けきれないとわかって、とっさにシートベルトを外して後部座席のあたしと母さんを守った。

母さんは隣にいたあたしを抱きしめて守ってくれた。

2人は即死。

冷たい雨と生暖かい血があたしの顔を伝っていった。

何度呼び掛けても帰ってこない返事。

救急車が来るまでの間に、あたしは知ってしまったから。

2人がもう、帰ってこないってことを…。