目の前には驚くべき光景が広がっていた。

鏡子は何やら着物のような帯で縛り上げられており、宙づりにされている。
白は白で全く微動だにしない。




「そうね——強いて言うなら、そこの可愛い《鏡の付喪神》かな?」




正影の背後に宙づりにされたいたはずの菊花は自分の刀を拾い上げ、鏡子の首に刀を沿えていた。

(何故この一瞬に?!)

焦りと似た恐怖がまた込み上げる。確かに《鳳》で捕らえていたはず!




「よくやったわ、蛇帯」

「——このようなこと、容易い」




地味女とは違う"女"の声。鏡子に巻き付いているあの"帯"は——



《蛇帯》

女の嫉妬心が帯に取り憑いて蛇となり、相手の男を絞め殺そうとする妖怪だ。云われは色々あるらしいが、初めて見たものだ。


だが、鏡子は"女"である。——何故だ、何故鏡子を狙うんだよ。



「あのさー。私が《影》を操れると知っていて炎を出していたわけ?だったら貴方、相当の馬鹿としか思えない」

「わ、わわ…若の悪口を言うな!お前なんて滅されろ!」


鏡子が喚いた途端に蛇帯にきつく締め上げられ、ぐっと押し黙る。


「ちょっとだけ静かにしようね?私だってこんな幼気な少女を弄ぶ趣味なんてないから」

「そこの《白狐》と玖珂の陰陽師も私の影で動けないみたいだねー」


フフっと笑う顔に苛立を抱く、それと同時にあの女を一発ぶん殴ってやりたい。
月光と炎が影を作り、俺達の体が囚われの身になってしまう。どんなに体を動かそうとも動けない——!



「何で……何で鏡子なんだよ、この極悪非道!!」

「白叫ぶな!!」


その瞬間、白の腹に菊花の鋭い蹴りが決まる。その表情はあまりにも冷たかった。

それこそ鏡のように。真実しか映し出さない。




「ぐぁあっ……!」

「し、白ちゃん——!!」

鏡子の瞳から大粒の涙が流れそうになる。