「若殿っ……こちらに何かが、」


白は未だに鏡子のサポートをしながら、報告をした。白の仕事は鏡子の鏡の中から"頭"の最も関わり深い人間を探させていた。


「時計だと?——あの女のか」

俺の足下に飛んで来たのは普通の女物の時計だった。一体何を企んでいる、そう考えるが。そろそろこの幻術にもボロが出る。



「《鳳》——あの女を捕らえろ」

軽く指を鳴らせば、炎が龍の如く空に駆け上りあの女の元に突っ込むのだ。


「ちょ、何アレ——?!」

上手く受け身が取れないせいか女は簡単に掴まったてしまった。あんまり呆気ないので溜め息が出る。

まあ、四方八方から炎が来るように見えれば戸惑うか。



「——鏡子、術を解け」

「御意、若」



そうすれば、アイツから見たぐにゃりとした視界から普通の現実世界に戻る。
俺は少しずつ歩み寄り、刀を女の首筋に沿える。



「陰陽師って確か殺生は好まないと聞いたけど?」

「そりゃそうだ殺生戒になってしまうからな。それにしてもこの状況でよく平気でいられるな」



炎で宙づりにされ、刀で首を跳ねられそうになっているこの状況でも冷静にいられるか。

先ほどの取り乱した様子は何処にも感じられない。

段々夜の濃さが薄れて行くような気がするし、満月の光も濃い。



「結構内心は慌てているよ?」





「——目的はなんだ」


正影の赤い着物と菊花の黒い着物が風で揺らめく。