菊花は小さく膝をついて、荒い呼吸をしてることに気付くのだ。何だこれ…幻術ってこんな事できたっけ?

それに陰陽師がこんな技使えるだなんて知らないわよ…!!



「……わ、たしは…。高村という者よっ…」

「息が上がっているようだな」



こんなんじゃどっちが悪者か解らないわよ…。私は正義の味方より悪者が大好きなちょっと捻くれた女の子なんだから。

菊花が深呼吸をしたその時だった。


(さぁ、地獄の始まりだ!)


沢山居る正影が刀を抜き、式神に息を吹きかけると視界がぐにゃりと歪むのだ。少しずつ、あの綺麗な正影の姿が気味の悪いものにしか見えなくなる。



『あっ、菊花!おはよう!!』


——えっ、栄子…?
何でこんなところに居るの?

そこに現れたのは、我が友人の栄子だった。一瞬パニックに陥るがこれは"幻術"なんだ——騙されちゃいけない。


『オッス高村!!悪ィ〜けど、英語の訳見せてくれ頼む!』


刑部君まで…。子犬のような申し訳なさそうな顔が懐かしい。
何でこんな人の心を映し出すような幻術…。


『よっ、高村。相変わらず眠そうな顔してんな?ほらロリポップやるよ』


爽やかに笑いながら私にロリポップを差し出してくれた植木君…。何なの、コレ…私の日常じゃないの。



(何で、私の心っ——)

一瞬だけだが、心の奥底に眠っているものまで今ここで解放させられそうで恐かった。



「…ちょっと、みんな…———っ?!」



『きゃあぁぁぁぁ!!!!』





何で、栄子が血まみれになっているの…?

アレ?何で私の手がこんなに血まみれなの?