「人間の世界から争いが無くなるなんて事は"絶対"にない。ましてや動物も妖怪も神さえもだ」
醜い、そう一言で片付ければそれまでしかない。戦いに美しさなど無い。
ただの鉄臭い狂気じみた空間だけしか存在しないのだ。
「私が人間にとって"害"ある能力を持っていても、それを使わなければならないの」
「どういうことじゃ、小娘」
毘沙門天が酒を飲むのを中断して、スザクを見上げるのだ。私が今ここに居る理由は誰にもわかっちゃくれない。
(誰にも、)
「知っている?チェーホフっていう作家が昔居てね、こんなこと言っていたの。
《物語の中で拳銃が出て来たならば、それを必ず使わなければならない》
ってね」
そう言えば、怪訝そうなスザクさんに私は小さく笑う。
「今、現実に起こっていることが"もしかしたら"誰かが書いた物語かもしれない。だったらこの物語に私の《能力》が登場してしまった。だから私はそれを使わなければならないの」
怒りを露にするのも解るよ?そして私はスザクさんに「先人の言葉も中々馬鹿に出来ないのよ?」と告げながら、拘束を強める。
「——だから、貴方も能力を使う。私だって、これからも使うのよ?」
「戯言を言うな!それでも貴様は血の通った人間なのか?!百鬼夜行の行く先々で妖怪を数多く滅し、それでも平気で笑っていう貴様は——
それでも、生きているのか?!」
(俺ァ、玖珂正影っつう者だ。賭けをしないか?)
(ちょっくらおめーの笛、聞きたくなってよ)
孤独に染まってしまった自分を拾ってくれた我が主。
そのぶっきらぼうな優しさが今でも鮮明に覚えている。

