妙な空気を醸し出した狐に正影は訝しかった。
眉を顰め、口元を歪めた。



(……何もかもが夢ならば、)



そうは願えど、そんなに簡単に事情が収まることはないと解っていた。いや、理解している。



「そーよ。ぶっちゃけうちには狐が居ないからねー、どう入っちゃう?」

「なななっ!?」

「テメェ、マジでSM公開プレイすっぞ」

正影は術を強め、菊花を縛り上げる。

「ばかばかばかばかー!!痛痛痛っ……!!マジで脱臼する!」

「貴様の邪悪な百鬼夜行に新たな不安要素をぶっこむな」

「不安要素って……。折衝なっ…」

「俺の母親を娶ろうとか阿呆ぬかす馬鹿を貴様のような阿呆で邪悪な百鬼夜行にふっこむか」

「何か阿呆増えた——!!!!」

「邪悪は認めるか!!」



菊花は涙を微かに流しながら、正影を睨むはほとんど効果はない。



「おい、そこの阿呆狐」

「阿呆狐?!ぼぼ、僕にはちゃんと"福丸"という名前がありましゅ!」

「なんという目出たい名前なのよ」

「これは、麗子しゃまが僕に下さった名前なのでしゅ!」



(……ちっ、面倒な)

(あららー、麗子さんったら面倒なことしたわね)


菊花は関係無いという顔をするが、すぐに正影に蹴られるのであった。



「いいい、痛い!!」

「テメェを地獄の一丁目に送ってやるぞ」

「できなかったくせに馬鹿言うんじゃねぇーよ!」



不適に笑うが……
正影はすぐに怒りを沈め、術を操り菊花を立たせた。そして、狐に一瞥もせずに歩き出そうとする。



「ちょ、ちょっと……玖珂君?」

「この狐のことは追々考える。——それより俺にはテメェから吐かせる義務がある」



夏に吹く、海の香り、それを感じながら福丸は突如瞳を細めた。

まるで……



"とある機関"であった男のようであった。それを知るのは高村菊花——魑魅魍魎の主だけであった。