玖珂君に似た鋭い瞳に見つめられ、私は静かに首を振った。



「——直接私に関係のない貴方が?」

「私がここに来たかった、そういう理由だけではいけないでしょうか」



このお墓は代々の玖珂の当主や奥方様達が眠っている場所だ。小高に建てられ、丘の向こうには美しい海が広がっている。

潮風が頬を撫で、ワンピースの裾が揺れるのっだ。



「おかしな話ね。私は生まれながらにして物の怪には関係のない人間なのに」

「……へえ、」


玖珂麗子は元より物の怪とは接点などない一般市民。霊など見たこともなければ、あまり信じる信じないなどをも気にした事も無い。

——何故市太郎との結婚までに至ったかといえば、彼女が市太郎に熱烈なアプローチとプロポーズを迫ったからだ。


(ま、まあ…玖珂さんの場合、一般市民と結婚するより霊力とかのある人と結婚する予定だったんでしょうね…)


菊花の考え通り、市太郎には許嫁が居たのだが麗子はそれをも跳ね返す勢いで市太郎に迫り——市太郎が麗子の熱意に負け、交際にまで至ったというのだ。



「まあ〜私も焦ったわよー。いきなり、振られ方が許嫁がいるから、君とは付き合えない?!バッカじゃないのって、思わず啖呵切っちゃってさー」


「何か想像出来ます」


美人が怒ると恐いもんな…。


「だから思わず、"私のこと馬鹿にしてんの?!私のこの気持ちに対しての答えは無いの?!"って言っちゃってね。まあ、そうやって怒鳴ったお陰で市太郎も見直してくれたし、私の気持ちに紳士になってくれたしね」



(やっぱ、)

思わず、この母親の姿を見て玖珂君にそっくりだなと感じてしまった。この真っ直ぐな所とかさ。

そうやって、嬉しそうに微笑んでいる麗子さんは本当に幸せそうだった。死んでも尚、市太郎さんことを思い続けている。



私は菊の花束から一輪だけ抜いて、墓石に置いた。