「正くーん!浮き輪を早く積んでー!!」



「墓参りにいるか、んなもん」

「だって帰りに海行きたいの!」


炎天下の中、車の中に荷物を詰め込む玖珂家。そんな中苦笑を浮かべる父・市太郎。


「はいはい春菜、帰りにみんなで海に行こうか」

「おお、お春!儂も一緒に!!」


アホな狐は大型犬サイズで飛び跳ねる。まるで甘える子猫のように縋り付いている——…。本当に「神狩り」を彷彿させない態度だ。

ここまでくるといっそ清々しい。


正影は小さく息を吐くと、市太郎は息子の髪をぽんっと叩いた。



「——正影、今日ぐらいは忘れなさい。今から母さんの所に行くんだ、そんな顔を見せたくないな、僕は」
















空を見上げれば、眩しい青空が目に染み込んだ。



(あぁ、なんて空が綺麗なのか)



正影は黒い髪を揺らしながら、車の中へ乗り込んだのだった。あの日から心の中には虚無しか広がらない。


耳の奥には禍々しい叫び声が響き、瞼の裏には蛇の化け物が映る。