落ち着け落ち着け……。頭の中でリフレインが鳴り響く。
龍星は変な動悸に襲われながらも、再び体勢を整えた。加藤は加藤で元々透けている体を恐怖で震わせていたのだ。
「——確か、実体を持った幻だったか」
「そうだよ。……菊花ちゃんがそう易々と滅されるとは考えにくい。だとしたら、あれは幻と考えた方が良いと思う」
「……だったら、美鈴をどう説明するんだ」
自然と声が強張り、握った拳がわなわなと震え出す。
「…美鈴ちゃんも幻、かもしれない」
未だに腕の中には美鈴を抱きしめた感触と温もりが残っている。小さくて柔らかい小さな女の子の体が……。
今ではこのただっ広い部屋の中には虚無しか存在しない。
「——美鈴は元気にしてるのか…」
ふと口から零れた言葉に加藤は瞳に涙を溜めて、ぼろぼろと泣き出した。
「お、おい加藤?!」
「ぐ、ふぇっ…!ひっくっ……ごめんね、ごめんね萩っち!!!お、俺が…俺に力があれば!……えぇぇえ〜〜ん!!」
「——っ」
ふと、男なら泣くなと言いそうになったが。加藤はただの幽霊だ、自分では魑魅魍魎の主には抗えない事をよく理解している。
「ひゃっく……ふぇっ…!そしたらっ…菊花ちゃんも…みんな…」
「加藤、それ以上言うな。解ったから」
龍星は加藤の心を充分に汲み取って声を発した。こいつの思いは痛い程解った。
「は、萩っち…!」
「あの大槻神社のが何かの計画の一部だとしたら……高村は馬鹿デカいことをやらかすだろうな。神を滅する以上に、何かを…」
龍星は立ち上がり、バイクの鍵を取り出した。
「——全てが終わったらさ、みんなで何処かにピクニック行こうね」
加藤がそう呟けば、龍星は口許に笑みを浮かべて…
「考えておいてやっても良いぞ?」
ニヒルに笑いながら、またもや夜の闇に飛び込んだ。

