「ほほぉ…そんな態度をとるのか?」




正影が妖艶な笑みを零し、再び赤い札を翳してぶつぶつと呪文のようなものを唱える。


この行為を見つめる西洋の妖怪はとんでもない男を敵に回そうとしているのをぼんやりと理解をした。

——あの赤い札は地獄へと確実に落とす"絶対的"な力を持つ札だ。菊花も本当は"あの時"に地獄に落とされるはず——だったのだ。



だが、どういうわけなのか菊花にはあの赤い札は効かなかった。恐らく彼女自身も地獄に落とす術を心得ているので相殺になったのではないかと——リチャードとライアンは考えていた。


だが、自分達を拾ってくれた彼女は「絶対的」な存在なのだ。最早居なければならない存在。


((……"君"が居なくちゃ、生きている意味なんてないんだ))



二人はギリッと奥歯を噛むが、どうにもならなくなってきた。



「口を割らなければ仕様がない。——地獄はさぞ、"苦しい"ところらしいぞ?」








——一縷の願いに懸けてみたい!!!




刹那——正影の炎を消し去る勢いで風が巻き起こり、吸血鬼とホムンクルスの体が宙に浮き上がったのだ!




(——さぁ、帰って来て——)

耳元をくすぐるのは、愛しいあの人の声が響き渡った。



「"不死鳥"を殺しているだと?!——待ちやがれ!!





——炎斬・紫雲!!」


立ちこめる煙が二人を捕らえようとするが——




「アデュ〜!!」




竹林の闇へと霧のように消えて行ってしまったのだ。