「——…瑠璃丸…」



青の似合う男の口には牙が生え、腰まで伸びる漆黒の髪、爪は獣のように伸びていた…


瞳は獣のように餓えていた。……血を欲する物の怪だ。



「……大、槻…殺す……。私の…邪魔をする奴は…なぎ倒すまで…」

「正気か?」







(……あぁ、聞こえて来るよ"厄"の声が)


義影は細く笑いながら、錫杖を鳴らした。しゃらんしゃらんと耳に響き、義影の背後にいるおぞましい姿をしている物の怪も薄気味悪く笑ったのだった。



御堂に広がる鮮血の香りと物の怪から香る腐敗した匂い。思わず顔を顰めてしまう大槻だが、己の瞳に映る瑠璃丸の姿に恐怖を感じていた。



彼女の右肩にふわりとやってきたアオスジアゲハに誰が気づこう。枯死する寸前の竹の花がどこからともなく、ひらりと舞い込んでくるのにも気づかない。


きっと、今後も気づかないであろう——…




誰にも気づかれずに死ぬ人生はどんなに虚しいのであろう。誰にも知られず、誰にも看取られず。そんな哀しい人生があってもいいのか。


死ぬことは特別なことではない。だが、それはとても言葉では言えないような摂理を含んでいる。



(…遥か昔、腐る寸前が美しいと聞いたことがあるのだ)





——目の前に映っている瑠璃丸はまるでそうである。