通路は人が賑わって、通っているはずに。
凛とし、立ち尽くしている。体が何故か動かなかった——…
(な、何だ…)
瞬きをした瞬間、その狐面の奴は消えてしまっていた。——背筋がぞくぞくするとはこういうことか。
もしくは、悪寒が走ったというのかよ。
妥当な表現が見つからなくて、夢か現かの判断がつけられなかった。
だが、
確かに視線は交わっていたはず。
と、その瞬間。目の前に艶のある艶かしい美少女が笑顔で手を振ってきたのだ。
「あっ!野球部の植木君、だよね——?」
キツイ香水の匂いが鼻を刺す。顔を歪めそうになったが、その娘に見覚えがあった。
「いつも、高村とじゃれてる…"アヤサキ"さんだっけ?」
「そうそう、綾崎だよ」
全然タイプの違う女子と居たからなんとなく覚えていたし、他の友人が彼女のことを噂していたな。
確かに美人だと思うが……化粧が濃い。
多分、自分を最大限に可愛く見せる術を知っているんだ。
じゃなきゃ、こんなに堂々とできないと思う。
(……そうだ、)
「高村は一緒じゃないのか?」
ふと、口から零れた。俺がそう言えば、大きい瞳をより一層大きくした綾崎さんとやら。
「一緒に縁日行こうって誘ったんだけど。どうやら外せない用事があるらしい」
(まぁ、玖珂君達とも一緒じゃないわね)
何となく菊花の事情を汲み取った綾崎。

