「もう!ちーちゃんったら、セクハラ!!」


(しかもナチュラルに交わされとるやないか——!!)

そして小さく落ち込んでいる天狐の姿が凄ェ切ないんですけど。



「それより、菊花ちゃん久しぶりね!正くん達と一緒じゃないの?」

「残念ながら一人ですよー」


全くー。私が誘われる訳ないじゃないですかー、とは言えずに口の中に含んだままだった。



さてさて、私はここらで退散しましょうか。身をそっと引こうとすれば、天狐の鋭い眼光が私を捕られてしまった。



(……マズいなぁ、)




「フハハッ…。お前も馬鹿な女だ、その格好で歩いているとは。飛んで火にいる夏の虫だ」

おいおい…そんな影を含んだ意地汚い顔で笑わないで下さいよ。美形だから凄みが増すから恐いッスよ…。


「玖珂君もろとも女性蔑視で訴えるわよ?」

「儂は妖怪だ、人間の事情など知らん」



千影がにやりと笑うと、そよそよと爽やかな夜風が吹く。
理屈じゃないこの感情がどうか壊れないように願うわ。

"失ったもの"を埋めようとして、結局自滅してしまうの。




賑やかな縁日に不穏な空気が漂う。




「何を仰っているのか解らないんですけど?"飛んで火にいる夏の虫"?」








「——しらばっくてんじゃネェよ」




掴まれた腕から「神の生気」が流し込まれるのは理解した。

何も恐く無いさ——…


ただ、血液が逆流するような感覚に囚われてしまう。壊れそうで、精神すら正常に保てれないかもしれない。




「——強気でいられるのも、今の内だ小娘」


腕を解放され、千影は先ほど春菜に向けていた甘い笑顔ではなく——

無表情で菊花を見つめていた。



(お春に近づくな、穢れる)


そんな警告すら聞こえて来た。