「「す、スザク様??!!」」
「ほら、帰った帰った。俺はこの子と話があるしな」
幹部のスザクに言われては帰らなくてはならないので、二人は渋々ながら玖珂家への家路を辿った。
そして、スザクはしゃがんで美鈴と視線を合わせたのだ。泣くのを我慢していたのか、唇を噛んで堪えている。
「ほらほら、唇を噛んじゃ駄目だ。…綺麗な梅色の唇が傷ついてしまう」
スザクは美鈴の髪を撫でながら、拾った麦わら帽子を被せたのだ。主人の正影から聞いてはいたが、中々の美少女だ。
(沼御前……。御主は可愛らしい娘を残したな)
平安京にいるときから、沼御前の美しさの噂を聞いていたが。これは成長が楽しみだ、どんな気品溢れる女性になるのか。
「……う、うぅ……スザク様、お久しゅうございます」
「久しぶりだな」
ちゃんと挨拶が出来る辺り、菊花の教育は行き届いているらしい。最近、正影から菊花の話題が堪えない。
加藤という霊を助けたり、この子のことや、学校での地味さ加減など。
好きなのか嫌いなのか、どっちつかずの小学生みたいな態度だが。まぁ…何とか歩み寄っているので良いか。
素直に生きるのが一番だ。俺たちはあまりにも永い時を過ごす。
「私は……美鈴と申します」
「良い、名だな——…」
そう微笑めば、嬉しのか円満の笑顔でこちらに笑いかけてくれた。
(美しい、鈴…)
「私はこの名前が大好きです!」
美鈴が笑えば、鈴を揺らすように小さな風が吹くのだった。

