「て、テメェっ…!」

「正影落ち着けよ。確かに夕方になるとお春に似てるな〜」



正影と呼ばれる男は目力だけで人を殺せそうな勢いで狐を睨んでいた。そして、その化け狐がニヤニヤしていたから気持ち悪かった。



「あの、どうでも良いので帰っていいですか?早く帰らないとドラマの再放送終わっちゃうんで」

「どんなけ自分に正直に生きてるんだ?!」

「いやー。自分に正直に生きるって大変なんだよ?現代社会を生き抜く人間みんながみんな出来るもんじゃないって」

「そうだぞ正影?儂は今も昔も正直に生きてる」


(だからテメェは毎日ストーカー行為をしてるんだろう?!)

(だから神様だったのに妖怪に成り下がったのね)



個人の思想は日本国憲法にも定められているのでどうも言えない。






「で、おめー。さっき放出していた"殺気"をどうした」





侮れない。
正直に思ったし、この男と狐は出来ると核心した。





「高々地味な女子高生が使える代物じゃねぇよな?」


(地味で悪かったなコノヤロー)


否定出来ない自分に軽く涙しながら、私は男と対峙したのだ。
「黄昏」時。


それは——



誰が誰だか解らない時間。




元は「誰そ、彼」であって、「そこにいる彼は誰だろう。良く分からない」という意味だ。


もう完璧に逢魔時。——人間の活動時間が終わり、妖怪達の時間が来ようとしている。