いや〜自分でも思うけど、かなり気持ち悪い演技だったわ。



そして菊花は小走りで鼻血を流した少年の元へ駆け寄ったのだ。今の演技への苦情は一切スルーするぜ少年よ。



「大丈夫?意識は?」

「——…あ、あります…」


紺色地のジャージが赤ラインだったので「一年」というのが判明した。私は少年の手当をせっせとするのであった。


生憎"あの日"から左腕が不自由になってしまって、未だに包帯やサポーターが取れない状況だ。——いやぁ、狐のトラウマに取り憑かれそうだよ。


でもま…ぶっちゃけ、日常生活に支障がないだけ良いだろう。




「……あの…ありがとうございます、」

「いえいえ。目の前で傷つけられている人が居たら助けるの私のポリシーッスから」


——なんかBEFORE"加藤"さんみたいだな…。ぼんやりと思いながら少年の長い前髪を上げて怪我の状態を見る…


涙目でも解るが——なんて澄んだ瞳をしてるんだろうか。髪の毛のせいでやぼったく見えたが、顔を曝け出せばこんなに素晴らしい原石が。


…これは違ったジャンルの良さだな……。



「他に目立った外傷は無しと…。保健室に行こう、内蔵に問題があったら危ないからね」


私は少年の腕を引っ張った瞬間…




——パシンッ…



と、腕を弾かれてしまった。




「…ぼ、僕のことは気にしないで下さいっ——。ささ、さっきのことはありがとうございました…。でも無かった事にして下さい!!」



そう叫ばれて、走って行った少年。菊花はその華奢な背中を見つめながら——




「じゃあ!私達が出会ったことに"意味"は無いの?」



それしか叫ぶ言葉が無かった。