玖珂君の部屋から春菜さんの元へ行けば——



「えっ…?」

渡されたのはタッパーの中に入った美味しそうな唐揚げに煮物など…だった。

「これ、良かったら晩ご飯に家で食べて?タッパーは正くんに押し付けてくれれば良いから」

「あ、ありがとうございます…」



春菜さんの背後でこちらを睨んで「受け取らないと殺す」と念じてきている天狐の千影のオーラに負けてしまってつい言ってしまった…。

な、何よ…あの嫉妬オーラ。


愛憎のようなもんを感じるんですけど…。ていうか、バイトどうしようかな…片手でも出来る奴をチョイスしないと我が家のエンゲル係数が——!



「本当はこんな夜遅くに女の子二人を帰すなんて…。正くんを無理矢理護衛させる?」


「あのそっとしておいてください」


なんつー最強なお姉さん。可愛い顔して結構エゲつない……チラリと萩谷君を見れば何だか無視を決め込んでるし。


「それじゃあお父さんを使う?意外に武道に精通してるから…」

「(玖珂さんもかい)——いえ、使いの者を呼びましたので」



蛇さん一緒じゃ電車に乗れないから、お迎えを密かに呼んでおいたのだ。そして、風呂敷の中に入った私の着物と羽織もの、紙袋の中に入っている晩ご飯(?)、蛇さんを体に巻き付けて春菜さんと一緒に門の前に出た。



「全く…ウチの男達ときたら、役に立たないわね!」

「い、いや……みんな諸般の事情があるのでわ」


苦笑しながら言うのだが、本当に玖珂の男達は苦労しているのであろう。こんなに可愛いくて天然なお姉さんが居たら…。



「……春菜さん、私とあんまり一緒に居たら。玖珂の人達に…」


あんまり口にして言いたくないが、彼女の悪口まで言われたら物凄く辛い。
それに——私の血塗れた世界をあまり知られたくない。