「私が気がつかないとでも思った?でもまぁ…何れ玖珂君にも話そうと思っていたことだから良いんだけどね」



蛇の子は私から離れて、痛む首を頑張って上げて深々と玖珂君にお辞儀をした。



「——お前、恐かったんだな」

正影は蛇の頭を撫で、小さく笑みを零したのだ。

まだ小さな女の子からしたら、千影や鏡子の技は死よりも恐いものだったと思う。恐らく…鏡子との「亜空間」で精神的に壊れそうになっていたのかもしれない…


心の奥底から無理矢理引き出す"記憶"と"真実"、"虚像"。まともな自我を持っている奴なら完璧に精神を壊す。



今更ながらも鏡子とのコンビネーション技の恐ろしさを知った。人の思い出の中に土足で入り込むようなことをしたんだ…




「もう、人間なんて食べようとすんなよ?」

俺がそう言えば、泣きそうな目でコクコクと頷いて高村に擦り寄って行く。


「——玖珂君、刺してゴメンね」

「んだよっ…、テメェが謝るなんざ気持ち悪い…」

「ちょっとォォ!!私大分前から頭下げて謝っているよね?!それすら全否定ッスか!!」

「冗談だ。——あれは俺が完璧に油断していたんだよ」



俺は布団を退けて、高村と向かい合うように座る。まさか天狐の力を流し来んで立っていられるとは思ってもみなかった…

正直、強いと感じてしまったし…。刺された瞬間、心底強くなりたいと思った…



「……勝たなきゃ、守りたいものも守れないのよ玖珂君…」

「だから——人間でも物の怪でも"強くなりたい"って願うんじゃネェかな…」



コイツも俺も根っこは似ているのかもしれない。腐ってやがると言ったが……互いに守りたいもんがある。



「——悪かったな、お前も"色々背負って"いるんだろう…」



ふと顔を伏せた瞬間、頭に小さな衝撃が——