「はい、もしもし」

電話向こうから聞こえてきた酒井課長の声は穏やかだった。

つい数時間前の覚悟に満ちた声からは想像もつかない。

あたしは扇町菜園にいることを告げた。

すると酒井課長からは意外な言葉が返ってきた。

「そうですか、ついにたどり着きましたか」

たどり着いた…?

「どういうことですか、酒井課長」

「あなた方が今いるのは菜園の中ですか」

「はい」

「目の前には『酒井』の立て札がある畑ですね」

「はい…」

正確にはその隣の畑だけどさ。

「もうお分かりかとは思いますが、そこは私が借りている畑です」

趣味の週末農業のため、五年前から借りているそうだ。

「松村から託された金は…300万はそこに埋めてあります」