ダンナの母はダンナを産む一ヶ月前に夫、つまりダンナの父親を亡くしている。その父親は自営で小さな金属加工工場を経営していたが、仕事を貰っていた親会社が倒産し、関係していた工場も軒並み連鎖倒産してしまったので、ダンナの父親の工場もあっという間に不渡りを出して、工場を畳む事になってしまった。
従業員の給料やいろんな所への払い込みでお金の工面で奔走してる最中、ダンナの父親は心不全で急死してしまった。
お金は保険金でなんとかなったが、夫を亡くしたダンナの母は深いショックの余り、自殺を考えたそうだ。しかし、祖母が様子がおかしいのを気付き、まさに部屋で首を吊る直前に部屋を尋ね、呆然自失の状態のダンナの母をいきなり平手打ちにして、抱きしめて泣いたそうだ。
痛いなら泣きなさい!
そう祖母が大喝すると、ダンナの母は破裂するように大泣きしたそうだ。
その後、祖母は何も言わず素麺を茹でてお腹の子供がひもじがっているから食べなさいと、ろくに食べて無かったダンナの母を元気付けた。
今でもその時の素麺の味をダンナの母は忘れられないとよく私に話してくれる。そう皆、辛い時の食べ物の味は、しょっぱく記憶に焼き付いているのだろうな。